やなぎみわが自らデザインし輸入したステージトレーラーは、クラクションを鳴らしながら、高速道路を天駆け、今年は東アジア文化都市2017京都「アジア回廊 現代美術展」に降り立ちます。
会場の東九条、十条は、韓国をはじめ多くの国の人たちが共生してきた場所です。ここで中上健次の傑作『日輪の翼』を野外公演として上演します。出演者は俳優だけにとどまらず、タップダンサー、サーカスパフォーマー、ポールダンサーのほか、地元東九条マダンのみなさんや韓国からの演奏家たちなど、ジャンルも出自も多彩な出演者たちが芸能の力で、過去と未来、聖俗、生死、性別、すべての趣向を凝らし、独創的な万物照応が織りなされます。
本公演の公開クリエーションで、京都芸術センターに来ていた演奏家の方々にショートインタビューをしてきました!
韓国からの招聘アーティストについて:
2人が演奏するプンムルとは、朝鮮半島に古くから伝わる農民の音楽と踊りの芸能、日本語で「農楽」とも言われます。文化本来の「深み」を追及する一方、現代的な舞台でも活躍する高敞プンムル奏者である林さん、李さん。近年では、農楽の奏者としてだけでなく、ソロの奏者として来日する機会も増えてきたとのこと。
林承奐(イム・スンファン)さんからのメッセージ:
初めてストーリーのある演劇に参加することや、様々なジャンルの人と演劇をベースに一緒にできること、そして東九条マダンのように日本でプンムル奏者として活動している方々と共演できることがとても興味深いです。作品の内容自体にも好感を持てたし、テーマや作品の根底にある意識にも関心があります。今度の出演でプンムルの味とか魅力を伝えたいとも思います。言語の違いがあって、全体性をどこまで理解できているのかは心配していますけど。
李性洙(イ・ソンス)さんからのメッセージ:
パフォーマーだけでなく制作チームや東九条マダンの人々との出会いにも期待しています。また、やなぎさんの作品作りは象徴的な要素を持ってきて構成するとか、一つ一つこだわって作っていく点が勉強になりました。彼女の演出へのこだわりにうまくプンムル奏者として参加していきたいです。今回の舞台ではプンムルや様々なパフォーマンスとのコラボレーションをどのようにまとめ上げるのかについても関心があります。慣れない経験であり、挑戦でもありますが、新しいエネルギーになっていると思います。 韓国語通訳:杉原悠太
東九条マダン 渡辺毅(わたなべたけし)さんからのメッセージ:
本公演の地元で長年文化的活動を続けてきた「東九条マダン」。さまざまな立場の人々が共に集い、創り、楽しむ場として、在日コリアン、日本人など、まざまな立場の人々が共に集い、創り、楽しむ場として始まりました。東九条マダンは、文化創造を通じて、それぞれのアイデンティティを確たるものにしたいと願いながら、民族や国籍、性別、年齢、障害の有無など、様々な違いを超えて、「ともに集い、作り、楽しむ」ことを、何よりも大切にしているそうです!
東九条マダンからのメッセージ:
今度の京都公演は、京都市主催の「東アジア文化都市2017京都」の一環であること、開催予定地が、東九条に隣接する勧進橋近くであること、中上健次の原作の中に、アジア民衆の魂の共鳴への祈願のようなものがこめられていること、やなぎみわさんが、開催予定地の「地霊」を引き出したいと思っておられるらしいこと、等々を知り、東九条の地で文化創造に取り組んできた私たちが、このプロジェクトに参加しないわけにはいかないのではないかと感じました。勧進橋のたもとで繰り広げられる『日輪の翼』が、私たち東九条マダンのメンバーが参加することで、他にはない、そこにしかない、豊饒な作品世界を現出することに期待を寄せています。また、多彩なジャンルの表現者によって創り出される今回の作品に参加することは、私たちの今後の表現活動にも大きな糧をもたらしてくれるものと思います。楽しみにしています。
最後に、やなぎみわからのメッセージをお届けします。たった4日間限りの貴重なこの瞬間を、ぜひお見逃しなく。
『日輪の翼』京都公演
日時:2017年9月14日(木)、15日(金)、16日(土)、17日(日)18:00開演
場所:河原町十条:タイムズ鴨川西ランプ特設会場(市営地下鉄烏丸線「十条」徒歩約6分)
チケット情報:販売中
(一般)前売3,500円、当日3,800円 (学生)前売3,000円、当日3,500円
販売場所 ローソンチケット、ぴあ、京都芸術センター窓口(10:00~20:00)
詳細は http://nichirinnotsubasa.com
『日輪の翼』京都公演に向けて、「アジア回廊に咲く夏芙蓉」 やなぎみわ
我が舞台トレーラーは、2014年夏に台湾の小さな工場で産み落とされ、盛大な爆竹音とともに高雄港を発ち横浜から日本に上陸しました。台湾ではトレーラーの荷台が舞台になった多くのステージカーが駆け巡っています。冠婚葬祭、寺の祭り、選挙運動など様々な場面で「貸し舞台」として出向き、屋根が持ち上がり「御開帳」すると、けばけばしい絵柄と電飾の内装が光り輝きます。
我がトレーラー「花鳥虹」には、中上健次の小説に頻繁に登場する架空の花「夏芙蓉」の絵が描かれています。このトレーラーを日本に召喚しなければならないと決意させた物語。それは中上の小説『日輪の翼』でした。
海と山の狭間にある熊野を舞台に多くのサーガを紡ぎ続けた中上は、1982年に長編『日輪の翼』を書きました。故郷である熊野の路地をすてた老婆と若者たちの、終わりのない巡礼を描いた摩訶不思議なロードノベルのとおり、南方から黒潮にのって日本に漂着した我がトレーラーも終わりなき旅公演を続けることになりました。
昨夏の新宮公演で、中上作品を生み出した熊野の地に別れのクラクションを鳴らしたトレーラーは高速道路を天駆け、今年は京都の十条出口に荷を下ろします。東九条、十条は、韓国をはじめ多くの国の人達が共生してきた場所です。1910年、韓国併合と幸徳秋水ら12名が死刑になった大逆事件が同じ年に起こりました。国家という共同体の維持を掲げた日本の近代化が落とした暗い影は今も消えることはありません。小説『日輪の翼』の終盤、天から舞い降りるように唐突に朝鮮半島の芸能者たちが現れ、老婆たちと束の間の狂舞を繰り広げます。
2017年、平穏とはいえない東アジアに向けて、京都から私たちが冷静に歴史を見つめ、未来に向けて思いを馳せるとき、熊野の路地の老婆らと、半島の放浪芸能ナムサダンの若者たちの至福の歌垣に託した中上の願いを、韓国ミュージシャンや在日の方々が共に集う祝祭に体現できると思います。
今年の『日輪の翼』は、ヨルトゥバル(農薬で頭に白い紐をつけて回すパフォーマンス)のごとく、更に美しい獰猛に輪舞します。有翼日輪のトレーラーのもと、芸能の力で過去と未来、聖俗、生死、男女、すべてが混合し交配する瞬間に立ち会ってください。